春のよる
「あら、眠れないのかしら?」
声に振り向けば、そこに居たのはパジャマを着たファクルだった。
「ご、ごめんなさい。起こしちゃった……?」
小さな明かりをつけたリビング。ファクルの部屋にまで届いてしまったのだろうか。
「まだ寝てなかったから大丈夫よ」
「そっか……」
ちょっと、安心。
「でもいつまでも起きてちゃダメよ? いくら暖かくなってきたとはいえ、夜はまだ冷えるんだから」
ちょっと怒ったような表情。ごめんなさい、と言えば頭を撫でられた。
「さて、サラ」
ファクルが手を差し出してくる。その手を握れば、優しく握り返される。あれ、なんで手を繋いだんだろう?
「ふふ」
笑いをこぼしたファクルに、首を傾げてみせたけど、なんでもないって言われた。
「さ、温かいミルクを飲みましょ。そしたらお布団に入って……」
ファクルがこちらを見て、ニコリと笑った。
「眠くなるまで、お話しましょっか!」
巡々三十題「春のよる」