守りたいものがある

 大切な者がいると、ヒトは頑張れるらしいぞ。ニヤリと笑いながら暁さんが俺をからかってきたのは、決して最近のことではない。だが、まあ。
(確かに、その通りだよなあ)
 心の中で呟きながら白煙を吐き出す。相変わらず暁さんの煙草は美味しい。
 まだまだある書類の山の最上から一枚取って確認する。本来ならば局長がやる筈の書類もある――あくまでも副長である俺がやっても問題ない物だけだが――それでも書類仕事が苦手な彼女の代わりを、自らの仕事が少ないわけでもないのに請け負っているあたりが、救いようがないというかなんというか。
 神守出身でありながら術持どころか魔持ですらない俺は、暁さん達のように戦闘が得意なわけではない。書類仕事の方が恐らく得意だ。それでも、前線に立たない訳にはいかない。副長という立場も勿論あるが、それ以上に。

 守りたいものがある。

 彼女を太陽に例えるのは、いくらなんでも在り来たりすぎるだろうか。

独白10題「守りたいものがある」

< prev top next >
top