結局転けてずぶ濡れになった

「いやっほう、海だー!!」
 いつ姉の声が砂浜に響き渡る。
 邏守隊らしゅたいの皆で来たのは、暁さんが知ってた隠れスポット的な海岸だった。人気もなく、それなりの広さもある。何より綺麗だ、凄い。本当に暁さんは何でも知ってるな……。
 僕たちが通ってきた人が住む地区と地区の間、地区外と呼ばれるそこは決して安全ではない。だから僕たちは海辺についてから水着に着替えることにしていた。
 はいはい男性陣は向こうに行くし、なんて暁さんが僕たちを追い払うように言う。いやまあ勿論覗くなんて馬鹿なことはする気ないので、大人しく従う。というか暁さんは水着着るんだろうか、想像出来ないな……。
 そんなことを考えながら水着に着替える。こういうとき着物って隠しながら着替えられるからいいなって思わなくもない。
 すぐに着替え終わったらしい壱姉が海に向かって駆け出すのを見て、葵兄が慌てて追いかける。準備運動してからだ! なんて声が響く。壱姉は相変わらずだ。
 着替え終わったし、と砂浜の真ん中の方に歩いて行けば、後ろから何人かの声が聞こえてきた。ほかの女性陣も着替えが終わったらしい。
 後ろを振り返って……ちょっと後悔した。
 か、かわいい。
 なんていうかもっとこう、覚悟して振り向くべきだった。空が、水着姿の空が可愛い。
 いや空が可愛いのは周知の事実なんだけど、いつもとは違うその姿も、また別の良さがあるというか。
 空らしい明るい黄色地にそれよりも薄い黄色で葉っぱの模様が描いてある、ワンピースのような形をした水着。上の方にはフリルもあって、空にとても似合っている。
「ゆーくん!」
「あー、空」
「うん?」
「……似合ってる」
 でもやっぱり。
 そのパッと華やぐような笑顔が一番可愛いのかもしれない。
 とりあえず、波打ち際に行って遊ぼうか。
 その手をとって二人、波打ち際へと駆けだした。

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