その思いは

 その影を初めて見たとき、僕はそれが煌めく夜空に感じたんだ。

 君は覚えているだろうか。初めて出会った日のこと。正直なところ、僕はよく覚えていない。ただ気付けば君という存在が隣にいた。
 君のことで強く印象に残っているのは、あの煌めく夜空のような、影を初めて見たときのことだ。影なのに、闇なのに。あの、夜空に星が瞬いているような美しさを抱いていた。そんな影を自由に操る君は、なによりも美しく見えて。
 恋を、したんだと思う。
 それまで君はとても遠いところにいる存在で。だけど、何故だろう。言葉を交わすことが出来たからだろうか。近いとは言わないけれど、手が届く存在のような気がしたんだ。
 何度も、何度も言葉を重ねて。君の事情を知って。
 そうして、悩んで。
 僕が選んだ道を、決断を、君は恨んでいるのだろうか。
 それでも良いと、思っている。
 例え恨まれても、憎まれても。君が自由に、幸せになれるなら。それなら僕は、多少辛い思いをしたって構わないと思ったんだ。今は自己満足な選択かもしれないけれど、きっと将来この選択が君を幸せにしてくれるって信じてる。
 でも、困ったことに最近部下として手元に置いて監視している子が、君のことを怪しんでいる。困ったなあ、君には平穏に暮らして欲しいだけなのに。
 だからきっちり釘を刺さないとね。
 なんだかんだ争いを嫌っていた君のことを、僕は尊敬しているんだ。だから、酷いことはしない。ただ、言葉で注意するだけ。それがきっと、君が一番悲しまない方法だ。そう思っている。
 そうやって考えて、ふと、君の存在がどれほど大きいかに気付くんだ。
 なんだか凄く照れくさくるよね。
 ――だってもう、君には数十年会っていないというのに。
 それでも君は僕の中心にあるということを、日々の些細なことで実感するんだ。
 いつか、再び向かい合える日が来るのだろうか。いや、きっと来る。
 僕がこの立場で、君が君である限り、きっといつか、その日は訪れる。
 そう僕は思っているんだ。
 大好きで、大切な、今も僕の中心にある君と。再び向かい合える日を。

 あの日、煌めく夜空の下で零れた涙も。きっと良い思い出として、語り合える日が来るだろう。
 そう信じて、僕は今日も生きている。

フリーワンライ参加小説:お題「煌めく夜空に零れる涙」

top