どうか、と。

 ――もう、なくなったと思っていたんだ。そんな、場所は。

 言ってしまえば私という存在は、疫病神だ。もしくは、死神。いつだって、そう思っていた。いや、いつだってではないか。あの日から、だ。
 あの日から私は私をそう認識していた。そうすることが私にとっての罰であり償いであると、信じていた。
 いつだっただろうか。それが間違っていると知ったのは。
 私があの日犯した罪に、罰を与えてくれるモノはいないのだと。どんなに願っても、償いを受けてくれる相手はいないのだと。わたしは、ゆるされないのだと。
 その時、確かに私は二度目の絶望を味わったのだ。

 だから、……死にたくて。死にたくて、死にたくて、死にたくて。死ねば、きっとこの罪も終わるのだと。
 そう思いながら、それでも自分から死ぬことは選べなくて。
 自分で死ぬなんて、出来ないと思った。してはいけないと、思った。ゆるされないと、おもった。
 ――だって、私の、犯した罪は。
 そうやって、死にたくて、でも死ねなかった時。
 私は出会った。出会ってしまった。この場所に。この人たちに。
「おかえり」
 と、そう笑いかけてくれるこの人たちがいる場所に。
 初めてそう声をかけられたときのことを、今でも覚えている。
 そこにあったのは、感動じゃなかった。絶望じゃなかった。諦観じゃなかった。

 ――ただ、理解した。

 私はもう、一生罰せられることはないのだろう、と。償いたいと思った時には、その相手はもう居なかった。その実感がきっと、私の罪を何よりも鮮明にする。
 テラス、と。
 私の 名前 つみ を、普通に呼んでくれるから。友人のように、仲間のように、家族のように。
 だから、きっと、生きていける。
 ここに居てもいいのだと、ともに生きていいのだと思える、この場所と、この人たちと。
 だから、きっと、生きて逝ける。
 この罪を後悔を絶望を忘れることなく、一生背負ったまま。
 このあたたかい場所に在る自分のことを赦せないまま、ずっと。ずっと。


「テーラスー!」
「遅いぞ! 早く来ーい!」
 この世に神が居るとは思わないけれど。罰してくれるモノも、償わせてくれる相手も、赦してくれるヒトも、いないけど。
「いま行く、そんなに急かすな」
 それでも、すべてが終わるその日まで、このあたたかい場所が変わらずあることを。
 祈ることだけは、どうか。
 ――どうか。

いちくら版創作ワンライ参加小説:お題「ご一緒してもよろしいですか」/帰る場所

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