身長差
「……何してるんだ?」
「見ての通りっつーもんです。オレの頭の上に定規のっけて、身長差を測ってんですよ」
直立不動で頼みます、と浅野に言われてその通りにしてみれば、横に並んだ浅野は自身の頭の上に三十センチ定規を乗せたのだ。思わず問いかけたのだが、見たとおりなのは分かる。定規は身長差を測るには微妙に足りていない。何故分かるのかと言えば、目の前に鏡があるからだ。
「背高ぇとは思ってましたが、ここまでありやがるのは予想外でした」
若干不服そうに呟く浅野は、なんだか珍しい気がする。
「不服そうだな」
普段なら言えない言葉を呟く。
無意識のうちに言霊を使ってしまう自分。だからこそ仮定や断定する言葉は出来る限り使わない、感情に関しては殊更。
でも浅野に言霊は通用しない。言葉を全く重要視しない彼女には、言霊も普段使う言葉さえも「ただの意志疎通手段」でしかないのだろう。
だからこそ、とても安心できる居場所でもある。
「届かねえじゃねえですか」
真面目そうな見た目と荒い口調は相変わらずちぐはぐだ。その頬を膨らませる行動は、普段以上に彼女を幼く見せる。
「武浦くんが好きって、行動で示せねえです」
「……は?」
思わず鏡から目を離して浅野を見る。微かに色付いている頬。
「オレが言葉じゃなくて行動重視っつーことは、よく知ってるでしょう?」
定規を掴んだ左手を頭の上から下ろしながら呟くように言う彼女。こちらを見上げる浅野は、正直言って可愛い。
とりあえず浅野と自分の気持ちが同じな事は分かった。たまには彼女のように言葉ではなく行動で示そうか。
そう頭の片隅で思いながら、彼女を引き寄せながら少しだけ体を傾けた。