例えるならその関係は

 緑の硬い髪は、どこか針葉樹を連想させる。そう言ったのは誰だっただろうか。
 窓の外に広がる森を眺めながら、ぼんやりとテラスは考える。
 確かそう、あの人だ――。
 柔らかい、艶やかな黒髪を靡かせて笑ったあの人。まるで夜のようだと笑った髪の人。
 そう。死んでしまった、あの人だ。
 目の前が赤く染まった気がした。違う、目の前じゃない、あの森が――。
「テーラス!」
「なにしてんだ!」
 ズサッ、と思わず後ずさりしたのは仕方のないことだと思う。だって、いきなり、目の前に橙色と緑色が飛び込んできたのだから。
「な、び、びっくりした……」
 ドキドキと早足で駆ける心臓を抑え込みながら、テラスは改めて目の前の二人を見た。
「何するんだ、フーガ、トッカータ」
 どこかホッとしたのは内緒だ。そんなこと言ったら、ろくでもないことにしかならないだろう。
「何って何もしてないけど?」
「勝手に驚くなんてひどーい」
「急に目の前に現れておいて、言うことはそれか……」
 溜息の中に微かに混じった安堵は、気付かれてはいないだろうか。
 なんでこんなに安心しているんだろう。驚かされたというのに。
 そうして考えて、すぐに理由に行き当たった。
 双子の妖精の背後、その先にある森は、青々とした本来の姿を見せていた。あの赤は、もうどこにもない。
「何ボーッとしてんのさ!」
「いって!」
 フーガに額を、トッカータに肩を蹴られた。地味に痛い。その薄い蜻蛉のような羽で、よくもそれほどの勢いで蹴りにいけるものだ。いくらなんでもおかしいだろう。色々と。
「なんで蹴った!?」
「なんでって」
「決まってるじゃん」
「「ボーッとしてたから」」
 顔を見合わせて「ねー」なんて言っている。これだから、この双子は。意思の疎通どころの話ではない。思考が全く一緒なのだ。じゃんけんでは未だに引き分けが続いているという。ちなみに勝ちも負けも一度もない。
 とりあえず。反省も何もないこの二人を摘まむことにした。
 首の後ろあたりの服を掴めば、二人共じたばたと暴れている。離せという声が聞こえるが知らない。
 こういう時小さな体は不便だよなあと思う。暴れても殆どダメージがないのだから。同じ妖精のネライダは小さい姿にも大きい姿にもなれるのに、何故この二人は違うのだろう。まあ、この二人に大きくなられても困るのだが。
「こんな扱いはねーよなあ」
「本当だよ」
 むくれている二人をこれ以上このままにしていても、後々面倒なことになりそうだ。そう思ってパッと手を離せば、二人共ぱたぱたと羽ばたき始めた。
「このことは!」
「忘れないからな!」
「物凄く弱そうな台詞だな」
 ビシィッとこちらを指さしながら言う二人に、思わず呆れ顔になってしまったのも仕方のないことだと思う。だってどう考えたってやられる側の台詞だぞ。
 そこまで考えて、やられてしまった盗賊の服装をした二人の姿が頭に浮かんでしまった。
 ふは、と思わず笑いが零れた。きっとこの二人はさっきの台詞を吐いて、復讐する機会を伺って、結局何故か悪戯することに落ち着いてしまうのだろう。
 笑うことはないだろー! とぷんすか怒る二人に、さらに笑いが零れてきた。
 結局、二人にまた額を蹴られることになるのだけれど。
 ちょっと気分が救われた、なんて。絶対に言ってやらない。調子に乗るだろうからな。

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