バレンタインSS(ネラ→諷ver)
「ネライダさん!」
声のした方を見れば案の定あいつが立っていた。
「なに、急に」
「先程作っていたお菓子が完成したので、渡そうと思いまして」
はっぴーばれんたいん、です。そうたどたどしく言いながら、俺様に渡されるのは小さなカップケーキがいくつか入った小袋。
「へぇ、見た目はちゃんとしてるじゃん」
「はい、奏誠くんはお料理も得意みたいで。詳しく教えてもらったおかげで、美味しく出来上がりました!」
小さく握りこぶしを見せて喜ぶ様に、ふーんとだけ返す。楽しそうだったからなんとなく避けてたけど、やっぱり邪魔しに行くべきだったかもしれない、なんて思う。
これから他の皆さんにも渡すんです、と手提げの中を見せてくるから、仕方なく覗いてやる。
「人数がそれなりにいるのに、ご苦労なこって。……ん? なんか俺様のだけ、多くない?」
覗いて気付く。明らかに俺様の分だけニ、三個程度多い。いや、微妙な差といえばそうなんだけど。ざっと見た感じ、他は全部同じ個数なようで、余計に違和感がある。
「あ、バレちゃいましたか」
あはは、と照れ臭そうに笑う理由がわからない。
「ネライダさん、甘いものお好きじゃないですか」
いや別に俺様は甘いものが特別好きってわけじゃないけど。ただ、食べ慣れてるってだけで。確かによく食べてるかもしれないけど。
そんな俺様の気持ちも知らずに、こいつは「だから」と笑う。
「ネライダさんだけ、特別です」
へらりと、少し照れたように笑う。
その表情に心臓が跳ねたりなんかしてない。してないったらしてない。
「内緒ですよ」
しー、と目を細めて笑う姿は、なんだか――いや、なんでもない。
嬉しいようなむず痒いような、そんな気持ちになんて、なってないったら!
誰にツッコむでもなく、心の中で叫ぶ。
……まあ、仕方ないから他の奴には言わずに味わうくらいはしてやろうじゃんか。