バレンタインSS(アオイツ)

「きゅーけー!」
 そう声に出してみれば葵は仕方なさそうに溜息を吐いた。いつもの局長室の風景だ。
 書類を手伝ってくれている葵には申し訳ないけれど、やっぱり私は書類をさばくのは苦手だ。集中力が持たない。体を動かしている方がずっといい。
 そんなことを思いながら立ち上がると、葵が「ココアなら私が持ってきますよ」と不思議な顔で言った。確かにいつもならお願いしてるけど、今日だけはそういうわけにはいかないのだ。
「ううん、今日は私が葵の分も持ってくるよ。たまにはいいでしょ。あと敬語はなし」
 にっこりと笑いかけてその場を後にする。さて、あまりにも遅いと心配かけそうだから急がないと!


「お待たせ~」
「随分と遅かったな」
 少し怪訝そうな表情で葵は言う。確かにただコーヒーとココアを淹れるだけにしては時間がかかったのは事実だ。
「ちょっとね」
 そう誤魔化しながら葵にカップを渡す。納得いってなさそうな表情のまま受け取った葵は、すんと鼻を鳴らすと不思議そうな声を上げた。
「コーヒーじゃないのか?」
「やっぱりバレたか」
 そう、いつもなら葵はコーヒーだけど今日は特別。なんだと思うと問いかければ、ココアかと答えが返ってくる。でも残念、ちょっと違う。
「ココアじゃなくてホットチョコだよ。今日は……バレンタインデーっていうらしいからね」
「ばれん……ああ、地球の催しだったか」
「そう。ベタだけど、葵にはいつもお世話になってるからね」
 いつもありがと。ちょっと照れ臭いけれど、はっきりと伝える。これは私からの感謝の気持ちだ。大切な幼馴染への。
 小さく目を見開いた葵は、すぐに嬉しそうに表情を緩めた。
「どういたしまして。まさか壱から貰えるとはな」
「空ちゃんたちが楽しそうにしてたんだもん。私だって日頃の感謝くらいちゃんとします」
「いや、そういう意味じゃないんだが……まあ、とにかく有り難くいただくよ」
 そう言って口元を緩ませたまま葵はカップに口をつける。それがなんだか嬉しくて、私は書類仕事の続きを頑張れそうな気がした。

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